わくわくヒューマンスキルコラム
第16回 聞き手のこと、考えていますか?
執筆:森 美緒
私が利用している駅前には毎朝入れ替わりで、各政党の方が立っています。
看板を出したり、マイクで演説をしたり、新聞のようなものを配ったりしています。出勤前の通行者は私も含めて、「いつも政党の人たちがいるな」と思いつつも、演説に耳を傾けることもなくどんな人物か見ることもせず通り過ぎて行きます。
活動をしている人は皆、大音量で何かを訴えているのに、その中にたった一人、目の前を通る人へ「おはようございます」と挨拶だけをする人がいます。一人ひとりに声をかけるような調子なので、思わずそちらへ顔が向くと、視線を合わせて「O O です。」「よろしくお願いします。」等、一言二言、さらに声がけがあります。
控えめな活動だなと思いつつ、週に2回くらいの割合で朝の挨拶を交わすため、顔と名前をすっかり覚えてしまいました。
先日たまたまいつもより早く家路につき駅に降り立つと、O O さんがマイクをセットし、演説を始めようとしているところでした。5分にも満たない短い演説でしたし、どんな人物なのかなんとなく興味があったので、ついつい最後まで聞いてしまいました。演説を終えて小冊子を配り始めた彼に、「なぜ朝は演説しないのか」と思い切って尋ねてみました。
すると、「朝は道が混んでいて、邪魔になりますよね。皆さん急いでいらっしゃるから足を止めていただける訳でもないですし。夕方はそんなに混まないし、バスを待っている人や、会社帰りに駅前で買い物をする人に5分くらいの話なら聞いてもらえますからね。」と明確な回答をいただけました。なるほどと思いました。
「朝は顔と名前を覚えてもらう。夕方は話を聞いてもらう。」さらに、「話を聞いてもらいやすいように、5分以内に話を終わらせる」というのは聞き手の状況をよく理解した上での工夫だったのです。
プレゼンテーション研修の中で、私は受講者にこう問いかけることがあります。
「話しても理解してもらえないとき、聞き手のせいにしてしまっていないでしょうか?」
聞いてもらえないなら、聞いてもらうために何をするのか。
理解してもらえないなら、理解してもらえるようにどう話すのか。
そのためのポイントはたくさんありますが、重要なことはやはり『聞き手の視点で見たら・・・』を考えることです。
たとえば、速いテンポでスピード感を持って話すのが好きだからと、自分のペースで話したとします。ところが、早口過ぎて、聞き手に聞き取れていなかったらどうでしょう。
聞き手は「もう一度言ってください」と何度も話を中断するかもしれません。
または、聞き取れないあまり、途中で聞くことをやめて立ち去ってしまうかもしれません。伝えたいことがきちんと伝わらなくても、話し手自身が満足したのだから、これでよかったと言えるでしょうか?
相手に何かをきちんと伝えたければ、自分がどんな話し方を好きか嫌いかではなく、どんな話し方をすれば伝わるかを考慮して話す必要があるのです。
私たちが普段ビジネスで話す相手については、たいていの場合、どの企業のどのようなポジションの方なのか、といった情報を持っているものです。冒頭でご紹介した街頭演説の場合と比べると、聞き手の状況を、より細かく考慮することができます。聞き手の視点で考え、自分が伝えたいことを相手に聞きやすく、理解しやすいように話す工夫ができれば、伝えたいことがよりスムーズに相手に伝えることができるのです。
森 美緒(もり みお)
グローバル ナレッジ ネットワーク 人材教育トレーナー。
1999年、教育出版社に就職し、営業および営業担当者向け研修を担当。商社での秘書業務を経て、2005年、グローバル ナレッジ ネットワークに入社。
2006年より現職。プレゼンテーション、コミュニケーションなどヒューマン・スキル研修の実施に当たっている。
[プレゼンテーション][2007年1月19日配信]


アクティブリスニング






