わくわくヒューマンスキルコラム
第36回:「交渉は第一印象が物を言う」
執筆:高橋 俊樹
10年以上前の話になります。ある日、営業のAさんが私の席にやってくるなり驚いた表情で「私服じゃないですか。今日はお客様訪問日ですよ。まさか忘れていたなんてことはありませんよね!」と指摘しました。
お恥ずかしいのですが、まさしくその「まさか」です。その日は前々からお客様先への同行依頼を受けていたのです。すっかり失念しており、言い訳の余地は全くありません。しかし、慌ててみたところで着替えのスーツもありませんし、アポイントメントの日程を当日になって変更するわけにもいきません。
その日の服装は、ベージュのチノパンに襟付きシャツというビジネスカジュアルでした。社内を探し回り、私の身丈にあったベージュ色の上着を同僚から借りることができました。「上着さえあれば何とか格好はつくだろう」との判断です。見た目を取り繕い、必要な資料など揃えてお客様先へ向かいました。訪問先は全員がスーツを着用しており、かなりかっちりした雰囲気の企業です。担当者と初対面のご挨拶を済ませ着席し、商談に入ろうとするとニコッとしがなら言われた次の一言にドキッとしました。
「素敵な服装ですね」
お客様との商談や打合せの中でネゴシエーションが上手になりたいと思う方が増えています。書店に行けば交渉に関するテックニックを紹介している書籍も数え切れないほど置いてあります。つい先日も、ある企業で社員向けに「仕事に必要なスキル」を調査した結果、エンジニアの多くがネゴシエーション・スキルをあげていたという話も聞きました。
ネゴシエーションと言うと、Win-Winに進めるためのスキルばかりが注目されがちです。
しかし、実際のビジネスの場では、ネゴシエーション以前の問題で入り口の所でつまずいているケースも多くあります。第一印象もその要因のひとつです。「自分は中身・内容が一番大事だから見た目は関係ない」とか「今はクールビズが一般的で、服装は問題ない」と考える方も少なくありません。
ただ、そうは言っても私達はぱっと見の第一印象で人を判断してしまうことがあります。
その服装によって「自分が尊重されていない、軽視されている」と感じるかもしれません。また、相手に対して、服装が整っていないことで「だらしない、マナーがなっていない」と評価されることもあります。
加えて、第一印象の怖い所は、なかなか変わらないということです。むしろ、最初に与えた印象が後々尾を引いてしまうことの方が多いと言えます。
研修に参加されたあるSI企業の女性のプロジェクトマネージャの方が次のように仰っていました。
「ブランド物が大好きなのですが、お客様先に行く時には鞄や名刺入れ、時計、アクセサリー、靴など全てシンプルな物に入れ替えます。会社に一式置いてあるのです。以前はブランド物で全身ばりっと決めていましたが、身だしなみや持ち物などにも気を配るようになってからは、早くお客様との関係ができるようになり、仕事も進みやすくなりました」
これはブランド物が駄目だということではなく、相手に合わせて、親しみ易い自分の第一印象に気を配ったという例です。
冒頭の話の続きです。実は名刺交換の際に、先方の担当者の方に、つま先から頭のてっぺんまできっちりチェックされました。今のようにクールビズが一般化する前だったとは言え、TPOの観点から見ても場にそぐわない服装だったことは言うまでもありません。提案内容や進め方以前に、入り口の段階で相手に「この人なら大丈夫そうだ」と信頼して貰うことができなかったのでしょう。結果としてその商談はまとまりませんでした。中身・内容はもちろん大切なことですが、それだけでは駄目なのだと猛省させられた出来事でした。
「ネゴシエーション・スキル基礎」
Win/Win(双方ともに満足を得る)を目指す交渉術を学習します。交渉相手の言いたいことをきちんと聞き、理解を示すこと。自分の言いたいことをわかりやすく伝えること。互いに多くのメリットが得られる解決策を協力し合って作り上げるプロセスを多くのロールプレイと共に学習します。
高橋 俊樹(たかはし としき)
グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。
1991年、自動車メーカーに就職し、営業担当者向けの教育の企画・実施を担当。その後、テレマーケティング会社を経て、2001年より現職。プレゼンテーション、ネゴシエーション、コーチングなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。
ITpro skillup2007年3月より連載中「コミュニケーション・スキル講座」
[ネゴシエーション][2008年9月24日配信]


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