わくわくヒューマンスキルコラム
第29回 "レセプター"の感度を上げる
執筆:田中淳子
2008年2月14日、セミナー「あなたも組織もぐんぐん伸びる!モチベーション・マネジメント術 ~コミュニケーションで刺激する"やる気の素"~」を開催しました。私の講演では「やる気を上げる」ためのコミュニケーションスキルを紹介しました。仕事を与える際にはきちんと目的を伝える、事後は具体的なフィードバックを与えるなど具体例も交え解説しました。「発信者 (伝える側) がどう物事を伝えればよいか」を強調した講演を行いました。
ところが、参加者から頂戴したアンケートでは、「コミュニケーションに関する共通言語化が重要」「ヒューマンスキルは基礎体力とわかった」など、講演ではどちらかといえば軽く触れた程度の部分に関する感想が多く書かれていました。「ここが大切」「この言葉がポイント」と話す側が思っていたのとは全く異なる部分が聞き手には響いていたのです。
これは、レセプターの問題だろうと思います。レセプターとは受容体とも言い、外部からのさまざまな刺激を受け取る、生体内にある細胞などのことを言います。本来は生物にある物理的な器官や細胞などを指す言葉ですが、心にもこのレセプターと同じようなものがあります。
コミュニケーションにおいて、受信者 (聞き手) のレセプターにぴったりとはまる言葉やメッセージなどが届いた時、それがその人には「最も印象に残った言葉」となります。ただし、自分にとって役立つ言葉をレセプターが受け取るためには、問題意識や内省する力を高め、レセプターの感度を上げておく必要があります。聞き手が課題だと感じている部分に関する話を聞き、何かの言葉が心に残るかどうかは、レセプターの感度に左右されるからです。
「私のチームではなぜやる気を高め合う状態が作れないのだろう?」と考えていた方にとっては、講演の中で一度だけ登場した「共通言語化」というキーワードが響く。「ヒューマンスキルって強化できるものなのかしら?」と疑問に思っていた方は、「仕事の基礎体力で、鍛えれば鍛えるほど向上する」と言われ、「なるほど」と納得する。
レセプターが受信するものは、その人が必要とし、探し、悩んでいる事柄に合致する言葉です。話し手の意図とは異なる部分が聞き手に強く影響することがあるのはこういった理由によるものでしょう。
今回のセミナーでは、こんなことがありました。2人の同僚の"やる気"にまつわるエピソードも講演で紹介しました。メールのやり取りを通じて双方ともにモチベーションを向上させたという実話です。2年前の出来事とは言え、具体的な事例だったため、セミナーで話すことを当事者には了承を得ておきました。セミナー終了後、当事者の一人からメールが届きました。
「実は最近、少しやる気が低迷していました。でも、一昨年のエピソードのことを尋ねられ、あの時の自分は今よりうんと頑張っていたことを思い出しました。やる気は自分で考えるべきものだったと気づきました。」
私は、「2年前にあんな出来事があったよね」と伝えただけです。励ましたわけでもやる気を刺激する言葉を伝えたわけでもありません。でも、自分のやる気を気にしていた彼女は、私との会話をきっかけに、数年前の自分を思い出し、気持ちを立て直すきっかけが得られたというのです。これも彼女のレセプターの感度が高まっていたために、他者からの言葉に反応した例です。
伝えた側にはどうということのない言葉が聞き手にとって深い意味を持つことがあります。この時欠かせないのは、聞き手の"レセプター"です。誰かと話す際、漫然と聞くのではなく、自分に役立つ言葉はないかと強くアンテナを張る。話を聞き、自らの課題と比較してみる。相手の話を受容し、吟味し、深く内省し、どう活かせばよいかを考察する。そういうプロセスを経て、「そうか!これだ」という発見につながります。
今回のセミナーでは、他者のやる気を高めるために話し手 (発信者) 側が使うべきスキルやコツをお話しました。
やる気を高めるために、もうひとつ大切なのが、聞き手 (受信者) 側の受け止める力です。いかに自分の中のレセプターの感度を上げて、他者からのよい言葉、役立つメッセージを敏感に捉えていくか。コミュニケーションの中から多くのものを得られるかどうかは、あなたのレセプターの感度次第でもあるのです。
田中淳子(たなか じゅんこ)
グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年、上智大学文学部教育学科卒。
日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップ、トレーニングスキルなどヒューマンスキル研修の企画、開発、実施に当たっている。
【著書】
『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』(日経BP社)
『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)
『はじめての後輩指導~知っておきたい30のルール~』(日本経団連出版)
DVD監修「実践コミュニケーション技術」(日経BP社)
[モチベーション][2008年2月26日配信]


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