わくわくヒューマンスキルコラム
第43回:誰が誰を承認するのか
執筆:森 美緒
「部下や後輩を承認するのは確かに大事だよね。でも私のことは誰が承認してくれるだろう?」
これは以前、ある受講者が、ぽつりと漏らした言葉です。
この時、教室では「OJT担当者が先輩社員としてすべきこと」をチームごとに話し合っていました。まだ後輩がいない年代の方もすでにリーダー職についている方も一緒になって、自分が先輩からされて戸惑ったことや嬉しかったこと、講義の内容からヒントを得て話し合い、アイディアを書き出していきます。
そんな中、冒頭の言葉が飛び出しました。それを聞いた他の受講者も、同感だとうなずきました。
私たちには自分の存在、変化、行動を認めて欲しいという欲求があります(これを「承認欲求」や「自尊欲求」といいます)。コミュニケーションにおける「承認」とは「相手の存在を認めること」です。褒めることとは違って、評価をするわけではなく相手の存在に対して反応を示すことを指します。例えば「あなたは作業が丁寧ですばらしいね」と言うと褒め言葉となり、「あなたは作業が丁寧だね」と言うと承認になります。良い悪いというような評価はしない分、どんな時でも発しやすいコミュニケーションです。
承認は人間関係構築の上で重要な意味があります。
例えば髪を切った翌日に同僚から「髪を切ったんだね」と気づいてもらえると、ちょっと嬉しい気持ちになりませんか?これは自分の変化(存在)に相手が気づいて言葉にしてくれたことが承認欲求を満たすからです。時と場合によっては(例えば、その髪型が不本意な出来であるなど)あまり触れられたくないときもありますが、通常はこの声掛けが、相手の承認欲求を満たし自信を高めたり、やる気を高めたりします。
相手を承認する方法はたくさんあります。名前で呼んだり、挨拶したりすることも承認です。相手の変化に気づいたり、相手が認めて欲しいと思っていることを言葉で伝えたりすることもまた承認です。前者は誰に対しても同じように行うことができますし、後者は相手を見ているからこそできる行為のため、より高いレベルで承認欲求を満たすことができます。
さて、冒頭の発言に戻ります。
「誰が私(リーダーや管理職)を承認してくれるのか?」
考えてみれば先輩社員や上司になると、後輩や部下に対して「承認すること」「褒めること」など配慮を求められます。でも管理職になると、承認される機会がうんと減ってしまいます。
それが管理職というものだと言ってしまえば、その通りなのかもしれません。ただ前述のように人間には承認欲求があり、管理職になったからといって、突然消えるものでもありません。自分は後輩や部下を承認しようと努力し、行動する一方で、誰も自分を承認してくれなかったら辛い気持ちになるのは当然です。
そんな状況を達観できる人が管理職になるのか、役職が更に上の人が承認すべきではないのかなど、受講者のディスカッションは続きました。
そのディスカッションを聞いていて、「私は誰に承認してもらっているだろう?」と考えました。先輩、上司、お客様である受講者、家族、最後に思いついたのは自分より少し後輩の同僚でした。「今日のスーツ、初めて見ました」「疲れているんじゃないですか?」「借りた本のここが面白かったです」「今日は眼鏡じゃなくてコンタクトなんですね」など、毎日の会話の中で、それこそものすごい数の承認を私は同僚からもらっているのです。仕事の一部ではなく普段の会話に「承認」されている機会はたくさんあるのだと、改めて感じました。
承認は上司から部下へ、先輩が後輩へと「上から下」へのスキルの1つとして捉えられていることが多いようです。でも、私の同僚がしているように、対等な同僚同士でも承認はできます。後輩から先輩へも、部下から上司へもできることです。私も同僚や先輩、上司など自分の周囲にいる人たちをもっと承認しようと受講者のディスカッションから気づくことができました。
ディスカッションをまとめて作った模造紙『先輩社員としてすべきこと』には「後輩をよく見て、承認する」と書かれ、その下には「上司のことも承認して、自分も後輩から承認してもらうぞ!」と添えられていました。受講者の選択は、「自分たちがきっかけになる」ことだったのです。
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森 美緒 (もり みお)
グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。 1999年、教育出版社に就職し、営業および営業担当者向け研修を担当。秘書業務を経て、2005年、グローバル ナレッジ ネットワークに入社。 2006年より現職。プレゼンテーション、コミュニケーション、ファシリテーションなどヒューマン・スキル研修の実施に当たっている。
2008年12月より翔泳社webマガジンEnterprisezinにて「新入社員が育つ!現場のための教育実践マニュアル」 連載中。
[コミュニケーション][2009年4月21日配信]


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