Global Knowledge Japan

わくわくヒューマンスキルコラム
第15回 コーチングの基本は"ラポール"=信頼関係の構築
執筆:飯嶋 秀行

  先日オープンした大型書店でビジネス書のコーナーを覗くと、コーチング関連の本が一気に増えたのに驚きました。
  コーチングとは、質問によって、相手の潜在能力を引き出し、支援するコミュニケーションスキルです。自ら考え行動できる、自律型の部下を育てるためのスキルとして、ここ数年コーチングが注目されています。
  コーチングについて、知識として知っている人の数は確実に増えています。一方で、コーチングのスキルを実務で使いこなせている人の数はまだまだ少ないのではないでしょうか。職場で部下にコーチングを試してみようとすると、そこには大きなハードルがあるようです。多くの場合、コーチングをする上司と、コーチングを受ける部下との間で、コーチングが機能する前提となる「ラポール」が構築できていないケースが多いのです。


  「ラポール」(Rapport:心と心のつながりという意味の心理学用語)は、相手との信頼関係を築くということで、もともとの言葉の意味は、心の架け橋ということです。
「この人なら、信頼して、自分の本音レベルの話ができる」
「ぜひ、この人にコーチングしてもらいたい」
コーチングを受ける部下の側からそのように感じてもらえるような、安全で安心できる状態、つまり、ラポールが構築できていることが必要です。


  本来、相手との信頼関係は長い時間をかけて築いていくものです。コーチング研修の中で、部下との信頼関係を築くために、どんな働きかけをしているか、グループでディスカッションしていただくことがあります。
「相手の目を見て、笑顔で元気よく挨拶をする」
「ありがとう、と感謝の気持ちを伝える」
「相手に依頼した仕事の経過を見守り、こまめに声をかける」
「相手の良い点に注目して褒める」
「相手の話を熱心に傾聴する」
など、演習の場では多くのアイデアが出てきます。
以上のような、部下との良好なコミュニケーションを日々積み重ねることが、信頼関係の構築につながります。


  先日、ある企業で、私が担当したコーチング研修終了後の懇親会に参加させていただいた際のことです。研修担当者と受講者との間で、以下のような会話が聞こえてきました。
受講者 : 「今日の研修の中で、一番印象に残った言葉は、ラポールですね」
研修担当 : 「そうそう、やっぱりラポールが築けていないと、何を言っても相手の心に響かないんだよね」
受講者 : 「コーチングに限らず、お客様との商談でも、ラポールが築けていれば、多少トラブルが発生しても、お互いに前向きに話し合えると思います」


  ほんの数時間前に研修で学んだキーワードが、リラックスした懇親会の場で、自然な感じで会話に登場していました。
  研修においてでも、受講された皆さんは、コーチングのロールプレイに積極的に参加され、お互いに率直なフィードバックを交換していました。普段から社内でのコミュニケーションの量と質が確保され、信頼関係の構築に意識が高いために、ラポールという考え方も、すんなり取り入れることができたのだろうと思いました。


  皆さんの職場では、お互いの信頼関係を構築するために、どのような働きかけをしていますか。ラポールを深めるポイントは相手の存在を認めることです。ですから、笑顔で心からの挨拶をすることや、相手に感謝の気持ちを伝えること、相手の話を熱心に傾聴することなどもラポールを深めることにつながります。
  目の前の相手とラポールを構築するために、どんな言葉をかけることが効果的か、意識を高めることからはじめましょう。


  コーチングの前提となるラポールの構築については、「はじめてみよう!ビジネスコーチング入門」(HS0064CG) の中でも最初のステップとして学んでいきます。このコースでは、はじめてコーチングを学ぶ方を対象に、基本スキルを段階的に学んでいきます。



飯嶋 秀行(いいじま ひでゆき)
グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。
商社で情報システムの企画・開発などを担当、現在はコーチングを中心に、プレゼンテーション、リーダーシップなどヒューマンスキル系コースを担当、PHP認定ビジネスコーチ上級、中小企業診断士、著書に「コーチングがやさしく身につく物語」日本実業出版社などがある。


[コーチング][2006年12月20日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第14回 相手が受け入れやすい伝え方
執筆:高橋 俊樹

  思ったこと、考えたことを相手に伝えるときに、どのようなことに気をつけていますか?最近、私が実際に体験した例を紹介します。


■ 保冷剤をつける?


~洋菓子店Aの対応~
私 : 「これと、これをください」
店員 : 「はい、かしこまりました。ショートケーキとエクレアですね。
お客様、お持ち帰りはどのくらいのお時間ですか?」
私 : 「大体30分くらいかかると思います」
店員 : 「それでは保冷剤をお付けいたしますか?」
私 : 「あ、はい、お願いします」
店員 : 「はい、それでは保冷剤を2個お付けいたします。料金は100円です」
私 : 「・・・」


~別のある洋菓子店Bの対応~
私 : 「これと、これをください」
店員 : 「はい、かしこまりました。ショートケーキとエクレアですね。
お客様、お持ち帰りはどのくらいのお時間ですか?」
私 : 「大体20分くらいかかると思います」
店員 : 「20分くらいですね、それでしたら保冷剤はなくても美味しく召し上がれます。有料で保冷剤をお付けすることも出来ますが、いかがいたしましょうか」
私 : 「では、なしで結構です」
店員 : 「ありがとうございます。それではできるだけ早く召し上がるか、早めに冷蔵庫へお入れ頂けますでしょうか。」


  この2つの対応を見てどのように感じたでしょうか。1つ目のA店の対応は、最初に保冷剤が有料であることを伝えておらず、相手の受け取り方を配慮していない、一方的な印象を受けました。逆に2つ目のB店の対応は、『美味しく召し上がれます』『有料で・・・』と相手の立場、受け取り方を考慮した、心配りが出来た伝え方で、大変親切な印象を受けました。


  私たちは仕事でもプライベートでも様々な場面で自分の考えを伝えあっています。その時にちょっとした伝え方の違いで、相手に不愉快な思いをさせてしまうこともあります。これは、敬語(尊敬語、謙譲語、丁寧語)など、言葉そのものの使い方が正しければ良いというものではありません。どれだけ丁寧な言葉を使っても、何をどのように表現し、伝えるかによって、相手の受け止め方や印象が変わってしまうものなのです。


  最近、コールセンター業務に携わる方達の研修(*)が増えてきています。電話でのサポートやアドバイス、提案活動では、直接顔が見えない分、言葉の使い方、相手が受け入れやすい伝え方が、より必要になります。自分では丁寧に正しく敬語を使って応対しているのにお客さまとよいリレーションが築けなかったり、クレームに発展してしまったりしてしまうこともあるそうです。


  しかし、このことは相手の顔が直接見えたとしても、同じことではないでしょうか?コールセンター業務に限らず、どの仕事も相手とのコミュニケーションによって成り立っています。だからこそ、私たちは、自分の思いや考えを、そのまま相手に伝えるのではなく、相手がそれをどう感じるのか、どう受け止めるのかをもっと考えて行く必要があるのです。そのために、相手に伝える際は、次のことを自問自答することをおすすめします。


  『自分の伝え方によって、相手の権利やプライド、モチベーション、相手との関係をそこねてしまわないだろうか?』


  もし、上の問いかけに『YES』と思ったならば、相手の立場に一度立ってみることをお薦めします。自分が相手だったらどのように伝えてくれたら嬉しいか、受け入れやすいかを考えてみてください。自分の側だけでものを言うのではなく、相手の立場や状況を考慮したものの伝え方に気をつければ、相手とさらによいコミュニケーションを取ることができます。


  余談ですが、冒頭の洋菓子店。どちらのお店も味に定評があり有名なのですが、2つ目のB店は1つ目のA店よりも美味しかった記憶があります。店員さんの対応の差でしょうか?しかし、ちょっとした差かもしれませんが、この差の積み重ねが、「また行きたい、あそこで購入したい、あの人からサービスを受けたい」という気持ちにつながっているのかもしれません。

 
* 「
効果的コミュニケーション・スキル」(ON306)
コールセンターに携わる方を対象に、効果的コミュニケーションをアレンジして実施することもできます。『相手の話を正しくより深く聴くためのスキル』や、『自分の伝えたいことを主張的に伝える』、『相手を説得するために必要なスキル』などを中心にご提供します。ご要望に応じて、さらにアレンジすることが出来ますので、お気軽にご相談下さい。



高橋 俊樹(たかはし としき)
グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。
1991年、自動車メーカーに就職し、営業担当者向けの教育の企画・実施を担当。その後、テレマーケティング会社を経て、2001年より現職。プレゼンテーション、ネゴシエーション、コーチングなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。


[コミュニケーション][2006年11月27日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第13回 たくさん読んで、たくさん書く
執筆:田中 淳子

  それほど混んでいない時間帯に乗り込んだ電車で、いつものように本を取り出し読み始めました。なんとなく周りの雰囲気がいつもと違う、と顔を上げ、見回すと、私の近くに立っている5~6人が全員、本を読んでいたのです。携帯電話をいじっている人に囲まれることの多かった最近にしては、非常に珍しい光景でした。同時に、「ああ、まだこんなに本を読む人がいるんだな」と嬉しくも感じたものです。


  最近、若手社員の「文章力を強化する方法」を指導してくれないかという相談が増えています。上司やリーダーに提出する報告書、議事録、その他日常のメールなどにおいても、「何を伝えたいのかわからない文章が多い」といいます。「事実の羅列だけになっている」「報告なのか相談なのか意図がわからない」「そもそも文章として成立していない」などという問題が、主に若手社員の間で起こっているようです。おそらく、"誰に何をどう伝えればよいのか"が自分でも明らかになっていない状態で書くため、読み手にとっては、意味不明の文章になってしまうのでしょう。
  こういう若手社員に「新聞や本を読みますか?」と尋ねるとたいてい「新聞は読んでいない」「本は年に1冊も読むか読まないか」といった答えが返ってきます。これでは、文章力を高めることは難しいでしょう。


  文章力をつけるためにすべきことは3つあります。「たくさん読むこと」「たくさん書くこと」「人からフィードバックを受けること」です。多くの文章を読み、どういう文章が読みやすくわかりやすいか、逆にどういう文章が読みづらくわかりづらいかを体験する。自分で多くの文章を書いてみる。そして、第三者に添削してもらったり、フィードバックを受けたりする。こういう地道な努力以外に文章力を強化することはできません。これは、料理の腕を上げるための方法と似ています。
  おいしい料理を作るためには、色々な料理をたくさん食べ、どんな料理がおいしいか、どんな料理がおいしくないのかを体験的に知る必要があります。おいしい料理を食べたことがなければ、どういう味を目指せばよいのか見当がつきません。また、自分が作っている料理がおいしいのかおいしくないのか、なかなか自己診断できないことでしょう。試行錯誤しながらも多くの料理を作り、誰かに食べてもらい、評価してもらう。そうすることで、徐々に自分の味が決まってくるのです。


  文章を読まなければ、自分の文章をよくするための基礎力がつきません。とにかく、まずは文章を読むこと。新聞でも、雑誌でも、本でもいい。食わず嫌いにならず、色々なジャンルの文章を読んでみる。慣れないと1冊の本を読み通すのですら1ヶ月以上かかってしまうかもしれません。それでも懲りずに続けていれば、少しずつ読む癖がつきますので、読むスピードも速くなってきます。できるだけ多くの本を読むことで、どういう表現がわかりやすいのか、読みづらいと感じるのはなぜかなど自分なりに分析もできるようになります。そうやってたくさんのインプットを得た後に、自ら文章を書いてみれば、どこがよくてどこが悪いのか自分でも判断ができるようになります。


  部下や後輩に本や新聞など文章を読む習慣をつけさせるためには、上司や先輩などの力が必要です。たとえば、「こういう本があるけど読んだ?」と仕事に関係ある本について話題にしてみる、「これ、読み終わったからあげるよ」と本をプレゼントする、あるいは、始業前や昼休みなどに新聞を広げて読んでいる姿を見せるなど、範を示されると、それを見て部下や後輩は刺激を受けるようになります。部下や後輩の文章力について嘆く前に、まず上司や先輩が背中を見せなければなりません。
  その文章は「紙に印刷されたものである」こともポイントです。インターネットでニュースを読んでいるからいい、というのではなく、紙の新聞で記事を読むことで、自分が見たいものだけでなく、多くの情報が手に入ります。それだけ、多くの文章にも接する機会が増えるからです。時代に逆行するかもしれませんが、私は、あえて「紙で文章を読む」ことを大切にしたいと考えています。


  私たちヒューマン・スキルの講師陣は、読んだ本をExcelシートに記録し、全員で情報を共有しています。互いにどんな本を読んでいるか理解し合えますし、他のメンバの評価を確認してから、その本を読むか読まないかを決めたりする場合もあります。メンバ同士で読んでいる本の情報を常に共有し、「いろいろな本を読もう」という意識を高めあうのに役立っています。


  読書の秋がやってきました。今日は、本屋さんに立ち寄って、1冊手にとってみませんか?


* 「新入社員フォローアップ研修」(HS0054CG)
  多くの企業では1月~3月の間に、新入社員向けフォローアップ研修を実施します。新社会人としての1年を振り返るだけでなく、2年次に上がる自覚を高めるために開催されます。仕事の棚卸やスキルの再確認などを行ったり、文章力や会話力のスキルアップを図ったりするカリキュラムです。企業ごとに異なるニーズがありますので、ご要望にあわせてアレンジして実施することが可能です。


★「田中淳子のわくわくヒューマン・スキル」は、次回から「わくわくヒューマンスキル」としてグローバルナレッジのヒューマン・スキル担当講師陣が持ち回りで執筆いたします。どうぞお楽しみに。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

【ブログ】 
「ヒューマンスキルの道具箱」
 

【著書】
『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)
『はじめての後輩指導~知っておきたい30のルール~』(日本経団連出版)

 

【連載中】 
日経BP朝イチメール「コミュニケーションのびっくり箱」(月曜日配信、無料) 

 


[新人社員研修][2006年10月23日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
-対談- IT業界のモチベーションを考える (その2)

IT業界のモチベーションを考える ~JTBモチベーションズ 大塚 雅樹社長、グローバルナレッジ 田中 淳子対談~
IT業界をはじめ、多くの組織で社員のモチベーション低下が課題となっています。社員のスキルとともに「やる気」という意欲の部分も重要視されるようになりましたが、これといった具体的な対応策がとられていないのが実情です。 組織全体のモチベーションのあり方について、モチベーションを機軸としたコンサルティング業務を行なうJTBモチベーションズ代表取締役社長 大塚雅樹氏と弊社の人材教育コンサルタント 田中淳子が対談しました。
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「今のままでいい」と思っているのではない
  まず、モチベーションを可視化してみること

社会的有意義性を感じること


JTBモチベーションズ大塚社長と田中淳子との対談は、前回に引き続き2回目(後半)となります。
前半(1回目)はこちら

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■ 「今のままでいい」と思っているのではない
  まず、モチベーションを可視化してみること

田中   最近、リーダーになりたくない人が増えていると聞きます。「リーダーになると自由度が減る」「したいことができないから、偉くなりたくない」といった考えです。
大塚   これは、バブル崩壊後、マネージャの仕事量、求められる能力が高まり、誰が見ても非常に辛そうになってきたため、「管理職になると大変だ。」「技術中心の専門職を極めたい」と思う人が増えたのです。
田中   「ポジションを変えたくない」「技術だけを極めたい」という人は、上司などからすると、同じところに停滞していて、やる気がないように見られがちですよね。
大塚   こういうタイプの方は先が見えないだけで、やる気がないのではありません。会社が多様なキャリアパスを用意していないため、キャリアパスの中に自分のなりたいものが見つけられないのです。もちろん、キャリアパスは自分自身で作ることもできるという側面も忘れてはいけませんが。
田中   以前、弊社でも社員教育にMSQ(*1)を活用しました。参加者は、モチベータ(やる気の素)が複数あること、自分と他人のモチベータが異なることに驚いていました。普段、「人によってモチベータが異なる」という認識を持つのは難しいですよね。
大塚   気づかない上司も多くいます。部下のAさんが喜んだ方法をそのまま同じようにBさんにも使ってみてもうまくいかない。すべての人が同じことでやる気を出すとは限らないことにその上司の方は気づいていないのです。
田中   一人一人のモチベータは異なっているということをMSQを使って可視化していくと、「人による違い」を目で見て納得しやすいですね。
大塚   モチベーションを可視化しても、「へぇ」で終わらず、具体的なアクションプランを立てられるかどうかも非常におおきなポイントです。
田中   具体化するのは案外難しいですよね。研修で「部下の育て方」として、明日から行うことを決めましょうという議論をしても、「わかりやすい指示を出す」といった抽象的な言葉を並べて終わってしまうことがあります。「何をどのように伝えるのですか?」と突っ込むと、「目的や背景を伝える」と少し具体的な答が出てくる。「何をどうする」まで落とせるかどうか、が重要なポイントだと私も感じています。
大塚   行動に落とし込むまで徹底的に考えることが重要ですからね。



■ 社会的有意義性を感じること

田中   さて、IT業界の新入社員研修は、3ヶ月~6ヶ月と長期間で行われます。たいていは、3ヶ月間で実施するところが多いのですが、その期間に、IT教育、資格取得、ヒューマン・スキル研修、擬似的なシステムを開発してみるといったことを行います。こういう長い研修ですと、どうしても学生気分が抜けなかったり、お客様状態になってしまったりすることもあり、新入社員を動機づけするのに苦労することもあります。
大塚   これは、新人に対して、研修の位置づけがきちんと説明されていないということも関係すると思います。研修期間とか、研修の種類の問題ではなく、会社が、新人研修のために、多大なコストと愛情を注いでいること、会社の方向性、どうなってほしいか、1時間たりとも無駄にできない研修であるということを新入社員にきちんと伝えているかということが大事です。それは、人事部や研修担当がしなければならない仕事でもあります。
田中   今の若者は、働く目的が"自分の成長のため"という視点にあるという話を聞いたことがあります。だから、納得しないと動かないと。上司の世代から見ると、何でも細かく説明しないと納得しないというのは、扱いにくいと思うこともあるようですが、こんな風に価値観が違う人同士で仕事をする場合、そのことを踏まえた上で相互にモチベーションをアップすることを考えなければいけませんよね。
大塚   それには、共通の価値観を見つけることでしょう。「結果」だけではベクトルが合いませんが、お客様が喜んでくれた結果、部下にはこんな価値がある、マネージャには別の価値があるとゴールは違うが、起因するものは同じなのでそこで共感できるのです。   また、若者でも、"自分のため"という考え方をする層と"社会のため"という考え方をする層がいますよね。
田中   確かに。そういえば、ある新入社員に「SEという職種を選んだのはなぜですか?」と尋ねたら、「ITというのは、世の中の全てに関係していますよね。その大切なものに関われる仕事だから、やってみたいと思って就職しました。」と目を輝かせて答えてくれました。入社前から意義をきちんと見定めている人もいるのです。そんな風に社会的意義を感じていれば、モチベーションは維持しやすいのかなと思います。
大塚   たしかに、自分の仕事は、社会から期待され、意義のあるものと思い、それを深く納得していれば、モチベーションは下がりにくい。医師や警察官などは社会的有義性を感じている人が多いのでしょう。個人で捉えにくければ、有意義だという感覚をチームや組織を上げて作っていくことも出来ますし、それも大切なことです。
田中   先ほど、自動車のディーラーのお話をしていただきましたが、他にも事例はありますか?
大塚   私どもは、組織単位でのモチベーションアップのコンサルティングをしていますが、こういった事例があります。婦人服の製造・販売をしている企業の話です。   店舗が全国に400店ほどあり、1店舗に店長とアルバイトが2~3人います。   店舗によって業績はバラバラでした。そこの社長が、顧客満足度を高めるためには、従業員の満足度も高めなければならないということで、相談に来たのです。   まず、売上を作れる販売員を調べてみると、試着を促せる販売員であるという法則が見つかったのです。試着室の稼働率を見ると、稼働率が高いところが売上の数字がよい。試着を促せられる販売員にはリピートが多い。女性なら分かると思いますが、多分似合わないだろうと思うと、試着もしないものです。
田中   わかります。試着室に入るか入らないかが、買うか買わないかの分かれ目になるというのは、実感できます。
大塚   そこで、できる販売員は「このお客様は、恐らくこういったテイストの洋服を今まで着なかったのではないか」と思うものを提案するのです。お客様が試着をしてみると、意外と似合っている。お客様は、普段自分が着なかった洋服が似合い、いつもとは違う自分に感激をし、心地よい気持ちが忘れられないため、その後もその販売員のところに戻ってくるのです。そこで、試着室に連れて行く話法や決めゼリフを全店舗に伝えるようにしました。その結果、1ヶ月ごとに業績が上がっていったのです。はじめ、"企画のせい"、"立地条件のせい"にしていた店長もいましたが、試着室の法則をつかむと次第に元気になっていきました。品揃えもあわせて改善し供給したため、業績がさらに上がり、会社全体が元気になりました。もちろん、そこに至るまではとても大変でしたけど。
田中   物事がうまくいかないこととどうしても他責にしてしまうことってありますよね。そして、自分でもまだしていないことがある、自分にもできることがある、ということに気づかせるのって難しいですよね。
大塚   納得させなくては、人の心はなかなか変えられませんからね。本人が気づくことで、他人論が自分論に変わるのです。
田中   店長さんでも、最初ははすに構えている方もいらしたのでは?
大塚   そうですね。全国の店長でロールプレイも導入しました。初めは、半分くらいの店長しか実践しませんでしたが、他の店舗が業績を上げてくると、自分たちもやってみようという気になったようです。ボトムアップですね。時間は多少かかりましたが、何割かやってみようという人を作ってみると、その周りが変わる。成功を体験すると元気になるし、他に波及するというのはいいケースですよね。モチベーションだけでなく、業績が上がるという好循環のパターンを作れるのです。お客様にも幸せを提供できる。いつもと違う服装を恋人やご主人に褒められた、というような。
田中   販売する側もお客さまも皆がハッピーになるという、素敵な例ですね。 最後になりますが、今後の展望をお聞かせください。
大塚   IT業界は、大きなマーケットであり、大きな価値を持っています。しかし、他の業界に比べ流動性が高いという問題も抱えています。私どもはIT業界の抱える問題に取り組み、会社へのロイヤリティーを高めるお手伝いをしていきたい、と思っています。
田中   ITエンジニアの皆さんが、達成感や成長の実感、仕事のやりがいを感じられるようになれば最高です。私どもは、スキル開発の支援を通じて、ITの仕事は楽しいという環境を作っていけたらと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


*1 MSQ
アンケート146問に回答し、やる気の高さ、やる気の要因、業績との相関にまつわる分析結果、およびやる気向上のためのアドバイスなどを得るものです。



大塚 雅樹 氏 プロフィール 株式会社JTBモチベーションズ 代表取締役社長 1986年、明治大学法学部法律学科卒、同年JTB入社。1991年社内公募でモチベーション・ビジネスの事業開発に参加し、ワークモチベーションの研究に着手。1993年株式会社JTBモチベーションズ設立。1996年やる気分析システム「MSQ」を商品化。2004年より現職。産業組織心理学会員、日本ベンチャー学会会員。 著書に『やる気を科学する』(河出書房新社・共著)、『明日の出社が楽しくなる本』(インデックスコミュニケーションズ 旧オーエス出版社)など。


田中 淳子 プロフィール
グローバル ナレッジ ネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント
1986年、上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現在はグローバル ナレッジ ネットワークでコミュニケーション、リーダーシップ、トレーニングスキルなどの研修企画、開発、実施に従事。産業カウンセラー。
著書に『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(ともに日経BP社)、『初めての後輩指導』(日本経団連出版)、DVD監修「実践コミュニケーション技術」(日経BP社)がある。



[][2006年10月16日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
-対談- IT業界のモチベーションを考える (その1)

IT業界のモチベーションを考える ~JTBモチベーションズ 大塚 雅樹社長、グローバルナレッジ 田中 淳子対談~
IT業界をはじめ、多くの組織で社員のモチベーション低下が課題となっています。社員のスキルとともに「やる気」という意欲の部分も重要視されるようになりましたが、これといった具体的な対応策がとられていないのが実情です。 組織全体のモチベーションのあり方について、モチベーションを機軸としたコンサルティング業務を行なうJTBモチベーションズ代表取締役社長 大塚雅樹氏と弊社の人材教育コンサルタント 田中淳子が対談しました。
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企業の抱える問題の根底に「モチベーション」あり
  個人と組織の目標が一致していることが重要

人それぞれのやり方で やる気を刺激する
仕事を楽しめる人は「ドラマ」を創れる人


後半(2回目)はこちら

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■ 企業の抱える問題の根底に「モチベーション」あり
  個人と組織の目標が一致していることが重要

田中   リーダー向けの研修を担当していると、どのチームでも共通して挙がる課題がモチベーションです。メンバと自分、両方のモチベーションを上げたいという声があちこちで聞かれます。
大塚   モチベーション低下という問題は、大なり小なり、どの企業にもあてはまると思いますね。情報共有がうまくいかない、後輩がなかなか育たないといったことも根本的な原因のひとつにモチベーションがあります。
田中   企業の抱える様々な課題のベースになるのが、モチベーションということですね。   でも、モチベーションは、個人の問題と考えている方も多いですよね。「大人なんだから、モチベーションは自分で高めるべき」という声も耳にします。
大塚   一部の企業では、すでに、社員のモチベーションを組織ぐるみで向上させていかなければならないと認識しはじめています。モチベーションを下げているのは、組織の問題であることが多いのですから。例えば、上司と部下の間に信頼関係は築かれているか?上司が部下に何を期待しているかをきちんと伝えているか?こういったこともモチベーションに関係してくるのですが、これらは、本人(部下)からすれば、自分の問題ではなく、外的要因になるのです。
田中   確かに、上司との関係や仕事そのものの要素などは、外的要因ですね。他には何か例はありますか?
大塚   自分のアイデアを仕事に生かしたいと思っていても、会社が「これ以上やるな」と範囲を決めてしまうことも。プロセスを決められてしまうとやる気の低下につながることがあります。本人に何かを表現する場を与えると、やる気が向上することもあります。



■ 人それぞれのやり方で やる気を刺激する

田中   「私がやりたいことと違う」といった理由でやる気を低下させてしまうケースもあるように思います。
大塚   個人と組織の目標が一致しているかというのも大切ですね。たとえば、個人が2、3年のスパンでどう成長していきたいかを考えていても、組織が短期間で結果を出すことを求めてしまい、個人の目標が会社のミッションと合わないということがよく起こっています。
田中   そういう思いなどのすり合わせはできても、上司が部下にフィードバックしてやれない、たとえば、きちんと説明できない、うまく褒められないといった問題もよく聞きます。そういう方たちは、自分もきちんと説明を受けたり、褒められたりした経験が少なく、上司になった時、今度は、自分がどう部下に対峙すればよいのか戸惑っているのではないかと思うのですが。
大塚   マネジメントの手法だけで管理しようとするからではないかと思います。こういう場合は、自分が自分の部下だったら、どうされると自分は楽しいか、辛いかを考えてみるとよいでしょう。モチベーションをアップする手法は、100人いれば100通りありますが、1つか2つのきっかけが組織全体に波及効果を生み出すということもあります。
田中 具体的な例はありますか?
大塚   自動車のディーラーのエンジニアの例です。エンジニアを長年やっていたAさんが突然、営業職に配置転換されました。彼は、車のスペックに関しては詳しい知識を持っていますが、営業経験はゼロに近いため、初めはなかなか受注が取れませんでした。そこで、私は、営業所長に「Aさんにしかできない営業スタイルを作らせること」とアドバイスしました。Aさんは自分の得意分野を活かして、競合車種との性能比較をした独自のセールスツールを作成しました。また、営業所長は、ショールームにくるお客様の中で、メカニックに興味を持っている方を彼に担当させるようにしました。お客様は、非常に高いレベルの話が聞けたと喜びますし、「彼なら、高いレベルでアフターケアをしてくれるだろう」と期待感を持ってくれるようになりました。Aさんも車が売れると自信がつき、楽しくなってきたのです。
田中   なるほど。営業職としてスキルというと、すぐに「接客方法」や「ヒアリング能力」を教育しようと考えがちですが、お客様からの期待感や仕事のやりがいを感じ始めれば、自分から進んで笑顔で接客するようになったり、コミュニケーションスキルも勉強してみようと思うようになったりするわけですね。
大塚   そうなんです。この例では、成績が芳しくなかった人が、受注が増え始めたことで、周りも彼に一目置くようになりました。刺激を受けた他の営業も数字を上げ、組織全体の数字も上昇しました。自分の希望でないポジションにキャリアチェンジとなるとモチベーションは下がりがちです。そこをどうやって、モチベーションをあげるか、今まで培った経験を新しい分野でどう活かすかをサポートするのはマネージャの仕事なのです。
田中   研修においても、前向きに参加する人と、上司に言われたから来たといって受身で参加する人がいらっしゃいますが、効果は全く違うと思います。ですから、私は、現場から送り出す人事部の方や上司などから、きちんと目的などを伝えてもらい、マインドセットをしてから参加していただくようお願いしています。それによって、研修も効果的なものとなるからです。
大塚   自分で気がつくとヒューマン・スキルもつきやすくなりますね。   別の例ですが、私は、時々、若手の異業種交流会で講演などを行ったりするのですが、「僕は、頑張ってMBAを取得してみたんですが、なかなかモチベーションが上がらないんです。」といったような相談をよく受けます。「MBAをどう活かしたいか目的はありましたか?」と聞くと、「ただMBAが欲しかったのです」という答えが返ってくるのです。MBAというのは、手段であって、目標設定とは、違いますよね。取得後、どういう仕事をしたいのかが明確になっていることが大事なのです。部下をお持ちの方は、部下と関わるときに、「なぜその仕事をやってほしいか」「そのスキルをもとに、何年後こういうビジネスパーソンになってほしい」ということを伝えてほしいと思います。その先の目標、イメージをしっかり上司の口から期待感と共に伝えることが大事ですが、なかなか実践しているという話は聞きません。
田中   エンジニアの方にはヒューマン・スキルが苦手で、例えば「今さら、コミュニケーションなんて」と抵抗感を持ってくることも多いのですが、「なぜ、こんな研修を受けなければならないのだろう?」という気持ちで受講しても効果がないですよね。
大塚   上司が「将来、こういう仕事で役に立つ」と具体的な仕事のイメージを伝えたり、「君も何年後にはリーダーになってほしいから」という研修を受ける意義を的確に伝えたりしていれば、受講する側のモチベーションも上がり、理解も深まりますよね。



■ 仕事を楽しめる人は「ドラマ」を創れる人

田中   ITエンジニアからはこんな悩みを耳にします。開発担当は成果物を作ることで達成感を味わえる。一方、保守担当は、システムは動いて当たり前と思われ、それ自体で褒められることもない。達成感も得がたいのでモチベーションを維持しにくい、と。もちろん保守担当全員のモチベーションが低いわけではなく、保守は重要な仕事であることは明確ですが、人によってモチベーションのバラツキがあるようです。この違いは何でしょうか?
大塚   "ドラマ"を創れる人かどうかの違いでしょう。"ドラマ"を創れる人というのは仕事の中に楽しみを見つけられるのです。保守という仕事には、作品はありませんが、ドラマがあります。何が起きるかわからない。そこに楽しみを見出せるかどうかでモチベーションが左右される。ドラマを作れる人、すなわち、そのストーリーを自分の中で組み立て、レビューができる、そういう人は楽しみながら仕事を行えるのです。楽しめていない人は、ただ現在の仕事をネガティブに捉えている。ルーティンワークとしか考えられないのですよね。
田中   ルーティンワーク・・になりやすいといえば、保守に限らず、色々な職種で当てはまりますね。
大塚   そうですね。例えば、総務や経理の人にも当てはまると思います。普段はルーティンワークの多い職種ですが、「楽しめている人」は、自分の中でドラマを作ることができているのです。決算前に新しい手法で決算を行うフローを考え、上司を説得するシナリオを作ってみる。   それを実行してみて「今回の決算は楽だったね」と同僚と話し、達成感を得られる。   マネージャは、こういったドラマを考える場を与えてあげるべきなのです。特に、ルーティンワークの業務を行う人にこそ、意識して考える場を与えるとよいと思います。それによって、本人も楽しむことができ、進化していくのです。
田中   ドラマというか楽しみという例でいえば、以前出会った汎用機の保守担当の方は、最初「今更COBOLで汎用機の保守なんて、花形でないから、同期に遅れをとる」と最初はすごく焦ったし、やる気を失っていたそうです。ですが、ある時、ふと、「これって、同期の誰もできない仕事だな。」と気づき、「どうせやるなら、会社一のCOBOLer(コボラー)になろう!」と決意したと言っていました。それも自分で楽しめるドラマを作った例だと思います。
大塚   そうそう。そうやって、楽しみを作れたら、具体的なアクションプランに効き目が出てくるのです。でも、マネージャにそういうことをサポートしようというパワーがないとできないのですが。やる気がある人ほど、否定された時にマイナス要素が2倍になります。がんばったのにダメだと、立ち直れなくなってしまうケースが多くあります。ですから、受け入れるマネージャの度量も必要です。「失敗したら俺の仕事が増える」、「責任が増える」と思う人も多くいますが、それでは、ダメですね。





大塚 雅樹 氏 プロフィール
株式会社JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1986年、明治大学法学部法律学科卒、同年JTB入社。1991年社内公募でモチベーション・ビジネスの事業開発に参加し、ワークモチベーションの研究に着手。1993年株式会社JTBモチベーションズ設立。1996年やる気分析システム「MSQ」を商品化。2004年より現職。産業組織心理学会員、日本ベンチャー学会会員。
著書に『やる気を科学する』(河出書房新社・共著)、『明日の出社が楽しくなる本』(インデックスコミュニケーションズ 旧オーエス出版社)など。


田中 淳子 プロフィール
グローバル ナレッジ ネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント
1986年、上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現在はグローバル ナレッジ ネットワークでコミュニケーション、リーダーシップ、トレーニングスキルなどの研修企画、開発、実施に従事。産業カウンセラー。
著書に『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(ともに日経BP社)、『初めての後輩指導』(日本経団連出版)、DVD監修「実践コミュニケーション技術」(日経BP社)がある。



[][2006年10月 6日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第12回 1ヶ月前の自分から届いた手紙
執筆:田中 淳子

  「チームワークとリーダーシップ」(*注)という2日間の研修コースがあります。チームとは何か、リーダーシップとは何かを学び、自分のリーダーシップの得手不得手に気づく内容です。この研修の最後に「1ヶ月後の自分にあてた手紙」を書く演習があります。「今はやってみようと思うけれど、1ヶ月も経つと忘れてしまうかもしれない。だから、1ヶ月後もちゃんと続けていますか?と自らに問いかけるような内容で手紙を書いてください」とお願いします。
  参加された方は、思い思いに「自分あての手紙」を書きます。文章で書く方、「続けているかどうか?」とチェックリスト風で作成する方、イラストや絵なども盛り込む方、カラフルに作る方、まちまちです。完成した手紙は、コピーをとり、原本はご自分で持ち帰っていただきます。コピーを封筒に入れ、糊付けし、最後にお好きな切手を貼って講師に提出します。中に何を書いたかは、ご本人のみぞ知る状態。講師もあえて聞きません。


  お預かりした手紙は、当社から1ヶ月後にお送りします。研修を受講したことも忘れかけた頃、参加者の皆さんの手元には、自分が1ヶ月前に書いた手紙が届く仕組みです。手紙が届くと、たいていの方は、一瞬「なんだろう?」と思うようです。宛名を見て、「どこかで見たことがある字だなあ」ときょとんとし、その後、「あ、自分で書いた、自分あての手紙だ」と思い出すのです。封筒を開けると、1ヶ月前に自分が考えていたことがそこに書いてあります。「あれをしよう、これをしてみよう」と研修時に決意したことを、1ヶ月経った今でも実践できているか、今一度再確認をしてみます。


  手紙が到着したことを知らせてくださる方が時々いらっしゃいます。あるとき、受講者の方からこんな内容のメールを受け取りました。



田中さん、


  ○月に"チームワークとリーダーシップ"を受講した××です。1ヶ月前に預けた手紙を今日受け取りました。手紙の中身を確認するまでもなく、研修に参加して以来、あの日自分でやろう!と決めたことは、一日も忘れることなく、実践してきたつもりです。それだけではなく、いつでも内容を再確認できるように、とテキストも手元に置いています。まだまだできていないことが多いですが、すこしでもチームが成功に近づくようがんばっています。


  ちなみに、手紙の最後に「今日も明日もがんばれ」と書いてありました。自分の言葉に励まされました。
  これからもがんばります。手紙を送ってくださってありがとうございました。

  この方が1ヶ月前に受講されていた時のことを思い出しました。研修では、様々なグループワークがあり、色々な会社の方が混ざってディスカッションします。そこでとても熱心に参加されていた様子、細かくメモを取っていたことなど鮮明に目の前に浮かびました。明るく元気にお帰りになったことも。


  研修に参加すると、その時は意外な発見や大きな刺激を受けて、「これには気をつけよう」と反省したり、「あれをやってみよう」と決意を新たにしたりするものです。ところが、何日か経つうちにその印象は薄らいでいき、日々の仕事に没頭していく中で、気づいたら「やろうと思っていたけど、できていない」「最初は気をつけていたけれど、やめてしまった」という事態になることのほうが多いと思います。少しでも行動が継続するきっかけになれば、という理由で、この研修では「1ヶ月後の自分あての手紙」という仕組みを取り入れています。
  手紙をお預かりして、1ヶ月後に投函する。そこで私達の仕事は完了です。手紙がその後どう役立っているか、といったことは、このようにお知らせいただかない限り知ることができません。でも、こんな風に「やろうと決めたことは1ヶ月間忘れずに実践し続けてきた。手紙を読んで、1ヶ月前の自分に励まされた」と報告していただけると、しみじみと「よかったなあ」と思います。研修の内容が現場で役立っていることを教えていただくことは、私たち研修講師にとっても大きな喜びとなります。


  それにしても、「今日も明日もがんばれ」、いい言葉ですね。


  誰かに言われるのではなく、1ヶ月前の自分から「今日も明日もがんばれ」と言われる。その言葉に勇気づけられる。自分で自分を励ますことができるのだと教えられた出来事でもありました。


* 「チームワークとリーダーシップ」(ON026)
  リーダーシップは、チームメンバの誰もがそれぞれの立場で関わり、果たすことのできる「機能」です。このコースでは、チームで働く際に起こる様々な事柄を題材に、チームワークとリーダーシップの各機能を学習します。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)
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[チームワークと
フォロワーシップ
リーダーシップ][2006年9月25日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第11回 ママ聞いて。ボク、一人で手を洗えたんだよ!
執筆:田中 淳子

  研修2日目以降の朝は、「昨日、研修で学んだことをどこかで試してみましたか?」と質問することがあります。
  たとえば、前日のテーマが「相手の話をさえぎらず、最後まで聞くことが大切」ということだった場合には、研修終了後、仕事やプライベートで誰かと会話した際「最後まできちんと聞く」ことが実践できたかどうか?を問いかけるのです。
  「部下と話したけれど、聞いているうちにじれったくなり、途中で割り込んで自分の言いたいことを言ってしまった」と反省する方もいれば、「飲み会で聞き手に徹して、自分のことはしゃべらないようにした。すると、今まであまり言葉を交わしたことがない人とも、色々な話をすることができた」とうまく行った例を挙げてくださる方もいらっしゃいます。


  ある研修でも「昨日の研修が終わった後に、実践してみた方、どんな成果があったかを教えてください」とお願いしたところ、一人の女性がそっと手を挙げました。
「あのぉ~、仕事上の出来事ではなくて、2歳の息子のことなんですけど・・」とおっしゃって、次のような話をしてくださいました。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


  研修初日が終了し、いつものように保育園に息子を迎えに行った。息子をベビーカーに乗せてできるだけ急いで帰宅したいのだが、いつも帰ろうとするとぐずり出し、手こずってしまう。昨日も、息子はすぐにベビーカーに乗ろうとせず、「じゃぐち」と言った。普段なら、「そんなのいいから、早く帰ろう」と手を引っ張るのだが、「最後まで話を聞く大切さ」を研修で習ったことを思い出した。「じゃぐちがどうしたの?」と聞くと、息子は私の手を引いて、水道のところまで連れて行った。2歳なのでうまく話せないながらも、どうやら、「ボクは、今日、一人で蛇口をひねって手を洗うことができたんだよ!」と自慢しているらしい。「そうだったの、よかったね」と言うと、息子はにっこり笑い、すたすたと自分からベビーカーに乗り込んだ。いつも「積み木が」「先生が」などとなにやら言っていて、そうスムースには帰れないのだが、水道の蛇口を一緒に見にいったら、息子は満足したようだった。これまでも「積み木」や「先生」について、私に伝えたいことが沢山あったのかもしれない。「いいから、早く帰ろう」と無理矢理ベビーカーに乗せようとしたため、抵抗していたのかもしれない。そんなことを反省した。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


  こんなお話でした。 「蛇口を見に行って多少時間がかかったと思いますが、普段と昨日蛇口を見にいってあげたときとでは、どちらが早く帰途につけましたか?」と尋ねると、彼女は、「蛇口を見にいったほうが普段よりもうんと早く帰れました。昨日は、まったくぐずらず、にこにこと自分からベビーカーに乗り込んでくれたんですから。」と言うのです。


  2歳の子供には、お母さんに何か伝えたいことがあった。それをお母さんが聞いて、「よかったね」と認めてくれた。それで満足が得られたので、自分から進んでベビーカーに乗った。ダダをこねることなく。
  これは、2歳児とお母様の例ですが、これと同じようなことは、ビジネスの交渉の場面でもよく起こるのではないかと思います。


  お客様は、どうしてもこだわっている点がある。その部分をエンジニアが真剣に聞いて、受け止めてくれていない、と感じる。だから、不満が残る。聞いてくれない相手から何か説得材料を示されても、そう簡単には納得できない。そのまま、交渉はいつまでも平行線をたどってしまう―――。


  交渉する時は、相手の言い分を聞くよりも、「こうしたい」「こうしよう」と自分の考えや自分の思いを前面に出してしまい勝ちです。でも、交渉相手の立場で考えると、「私の話も聞いて欲しい」「私が何に納得できないかを理解してほしい」と考えているのに、それに対しては、聞く耳を持ってくれないとなれば、素直に交渉のテーブルに着くのは難しくなります。


  相手の言い分、相手の気持ち、相手の考え、相手の状況などをよく聞き、深く理解し、場合によってはしっかりと共感を示す。説得でも交渉でもまずはそこから始まります。
  話を聞いてもらえた、共感してくれた、と思ってはじめて、人は「相手の言い分も聞こう」という気持ちがなれるのです。 交渉や説得は、一方的に押し切るのではなく、相手とともにベストな解を見出そうとする、協働のプロセスだと捉えるほうがよい結果を生み出します。


* 「ネゴシエーション・スキル基礎」(HS0035CG)
Win/Win(双方共に満足を得る)を目指す交渉術を学習します。交渉相手の言いたいことをきちんと聞き、理解を示すこと。自分の言いたいことをわかりやすく伝えること。互いに多くのメリットが得られる解決策を協力し合って作り上げるプロセスを多くのロールプレイと共に学習します。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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[ネゴシエーション][2006年8月22日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第10回 上司のやる気を高める試み
執筆:田中淳子

  「部下のやる気を引き出すのは上司の責任だ」という考え方があります。やる気は個人の問題によるところもあるので、全てが上司の責任とは言えないと思いますが、部下のやる気を左右する影響力を上司が持っていることは確かでしょう。
  たとえば、若手・中堅社員に「やる気を高める時、損ねる時」というアンケートをとると、「上司の言動ひとつ」で部下のやる気はずいぶん変わるものだということがわかります。上司は、一つ一つの自分の言動が思っている以上に部下に影響していることを覚えておいたほうがよいのです。


  では、逆に上司のやる気はどうなっているのだろう?と疑問に思うことはありませんか?上司にもまた上司がいるので、上司のやる気は上司の上司が面倒見ればよい、とも言えますが、実は「部下が上司のやる気を左右している」という面もあるのです。
  上司と部下は、共通の目標を達成するために協力し合わなければなりません。やる気についても、互いに高め合うことができれば、チームとしてよりよい成果が期待できるのではないでしょうか。


チームワークとリーダーシップ」(*注1)という研修で、「上司のやる気を高めるという考えもある」という話をしたことがあります。それを聞いた参加者の一人Aさんが、会社に戻り早速あることを試してみたそうです。


  彼の上司は、週1回の「マネージャ会議」に参加して自席に戻ると、必ずため息をつく人でした。資料を「どさっ」と机に置く音と共に、「はぁ~」と深く大きなため息が聞こえてきます。Aさんはそのたびに「あぁ、あのため息、やる気なくなるんだよなあ」と思っていました。
  研修直後にまたマネージャ会議の日がやってきました。「上司のやる気」の話を思い出したAさんは、課長が会議から戻っていつものように深いため息をつこうとした瞬間に、「マネージャ会議、どうでしたか?」と声を掛けてみました。
  すると課長は、「ん?」と振り返り、意外そうな顔をして、Aさんにこう言ったそうです。「え?興味あるの?」
  課長はAさんに近づき、「実はね、今、こういう話が出ていてね。全部はまだ開示できないんだけど、これとこれが進んでいるんだ」などと細かく話してくれました。「課長は、マネージャ会議の内容を内緒にしていたわけではなかったんだな」と思い、次の週も「マネージャ会議、どうでした?」と質問しました。「今日は、これが決まった。近々こういう発表があるから、準備しておいて」と、その日も課長は丁寧に説明してくれたそうです。
  そうこうする内に、課長はAさんだけでなく、他のメンバにも「マネージャ会議で話されていること」を自分から積極的にフィードバックするようになったといいます。


  よく「うちの上司は、マネージャ会議で出ている話を部下にぜんぜん話してくれないからな」と愚痴をこぼす人がいます。そういう人のどれだけが、上司に「マネージャ会議はどうでしたか?」と自分から問いかけているでしょう。
  Aさんの上司である課長は、部下のAさんから「マネージャ会議どうでしたか?」と質問されたことで、部下も会議内容に興味を持っているのだ、と初めて気づいたのかもしれません。今までは、「こんな話を部下にしても、聞いてくれないだろうし」と思い、場合によっては会議で出た話を胸にしまいこんで、深いため息と共に自席についていたのかもしれません。
  そんな時、Aさんから質問してくれたことで、「会議の内容をメンバにきちんと説明する」という行為が呼び覚まされたのです。Aさんの部のメンバは、これにより、マネージャ間でどんな話が進められているのかを以前よりも早く詳しく知ることができるようになりました。


  私も最近、意識して行っていることがあります。部下の上司評を上司の耳に入れることです。特によい評判を積極的に上司に話してみています。たとえば、「この間の会議、タイミングが早くてよかったとメンバが言っていましたよ。」「面談で話をよく聞いてくれた、と喜んでいたメンバがいましたよ。」と。
  部下からの評判を耳にするとたいていの上司は嬉しそうな顔になります。そう、誰だって、「人が自分のことをどう思っているのか」は、気になるものです。上司というのは、部下の不安や苦情、文句はよく聞かされますが、自分のしていることについてのよいフィードバックはなかなか受ける機会がないと思います。そうすると、「してはいけないこと」はわかっても、「何をすればよいのか」まではつかみづらいのです。
  だからこそ、部下からの"よい評判"を上司に伝えることは、上司のやる気を刺激することにつながるのではないかと私は思っています。


  これらの例のように、上司に「自分のやる気を高めてほしい」と期待するばかりではなく、自分が上司のやる気を高めるためにできることは何かを考えてみることも、組織の活性化につながるひとつのきっかけになりそうです。


(*注1)
チームワークとリーダーシップ」(ON026)
リーダーシップとは、チームメンバに対する影響力のことです。「仕事の達成」と「人間関係の維持」の2つの「影響力」について、具体的に自分が何をすればよいか考えるための研修です。リーダーの方もこれからリーダーになる方にもお勧めします。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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[チームワークと
フォロワーシップ
リーダーシップ][2006年7月21日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第9回 新入社員のOJTを成功させる秘訣
執筆:田中 淳子

  ITエンジニアとして採用された新入社員が各部署に配属され、職場でのOJT(On the Job Training)が始まるのはたいてい6月~7月です。
  グローバルナレッジでは、OJTトレーナー(新入社員の指導担当者として人事部や上司などから任命された人)とOJT制度を支援するために、いくつかの研修プログラムを行っています。研修を通じて各社のOJTを見てきた経験から、OJTを成功させるための秘訣を3つ挙げてみましょう。


1.職場全体を巻き込む
  新入社員をきちんと育てるためには、OJTトレーナーの「教える意気込み」や「上手な教え方」「きめ細かい接し方」などが不可欠です。ただ、育成の全てがOJTトレーナーの責任かといえばそうではなく、職場の上司やOJTトレーナー以外の先輩社員も新入社員の育成に少なからぬ影響を及ぼしていることを忘れてはなりません。
  「新入社員は、職場全体で育てるのだ」という意識を部門内で共有し、OJTトレーナーだけではなく、上司や他の先輩も皆で新入社員を見守り、指導し、時には褒めたり、注意したりしていかなければなりません。
  OJTがうまく行かない例がいくつかあります。
  例えば、「専任のOJTトレーナーがいるのだから、私が口出しすることはあるまい」と他の先輩が新入社員と距離を置く場合があります。こうなると、新入社員の育成は、OJTトレーナーひとりの肩に重くのしかかかってしまうことになります。
  OJTトレーナーが出張や休暇で不在になると、新入社員が放置されてしまうという問題もよく起こります。OJTトレーナーの不在期間は、育成の代行を決めておくことで、新入社員が放っておかれるという事態を防ぐことができるのです。
  「職場全員で育成する」風土を醸成するために、「OJTのキックオフミーティング」を開くこともお薦めします。これにより「どんな人材に育成したいか」「日ごろどのように接するか」など社員間で意識を合わせることができるからです。


2.自分が育てられた時代や環境に固執せず、新入社員を受け入れる
  長いキャリアをお持ちの方から「部下をどう褒めればよいかわからない」、「きつく叱ってはいけないのか」、「黙って言う通りにしろというのはダメなのか」などと言われることがあります。また、「自分が若い時は上司の指示通りに仕事をした。いちいち目的など聞かなかったが、今の若手社員は "なぜですか?" "目的は?" と聞き、理由がわからないとなかなか動かない」と嘆く声も聞きます。確かに、少し前までは、部下は上司の言う通りにすること、先輩の指示に従って後輩は動くことが当たり前だったのかも知れません。若いうちは理由など考えず、ただがむしゃらに邁進すればよかった時代もあったでしょう。
  しかし、時代と共に、新入社員の考え方は変わってきています。ここ数年は特に、「仕事を通じて自分の成長を実感したい」「きちんと納得した上で仕事に取り組みたい」と考える人が増えています。育成する側もそういった考え方や職業に対する態度の変化に対応していかなければなりません。
  年長者は、おそらく、自分が習ってきたのと同じように新入社員と接してしまうのでしょう。ところが、新入社員の反応は、想像と異なっており、そのことに戸惑いを感じてしまうのです。ベテランが育った時代にはその時代ならではの方法があり、現在の若手が育つためには、それに合った別の方法がある。これはどちらがよいとか悪いと言った話ではなく、互いにそれぞれの方法を受け入れることがもっとも建設的な気がします。
  上司や先輩は頭を柔軟にして、その時その時代に合った方法で新入社員の育成に取り組んでいく必要があるのです。


3.OJTトレーナーに発散の場を
  OJTトレーナーは、日々「育っていく新入社員を見守る楽しみ」を感じると共に、「大変さ」も味わっています。
  たとえば、あるOJTトレーナーは、何度話しても理解してくれない新入社員に、どう対応すればよいのかと悩んでいました。新入社員が作成した書類の改良点を指摘しただけで激しく落ち込んでしまったため、徐々に「腫れ物に触るような」接し方しかできなくなったと困り果てている人もいました。もちろん、慣れない環境に置かれた新入社員の悩みも大きいのですが、教え育てる責任を持っているOJTトレーナーのストレスも相当なものなのです。OJTトレーナーとして苦労していること、心に思っていることなどをどこかに吐き出し、すっきりしたいこともあります。
  ある企業ではOJTトレーナー全員を毎月1回集めて、情報交換する場を設けています。進捗の確認ができるだけでなく、OJTトレーナー同士で気持ちが共有できることも意義のひとつです。「実は私も同じことで悩んでいた」「僕もそのことで随分苦労したんだ」――。OJTで遭遇した色々な悩みや問題を分かち合えるだけで、随分気が楽になります。
  こういった情報交換の場を作れなくてもできることはあります。職場の上司や先輩が、OJTトレーナーの話を時々聞いてあげることも、OJTトレーナーのモチベーション維持に役立つのです。


  希望に燃えて社会人になった新入社員。「後輩を育てる力がある」と見込まれて任命されたOJTトレーナー。それぞれが楽しく充実して過ごし、共に成長していくことができるよう、職場全体でOJTを支援していきたいものだと思います。


★グローバルナレッジでは、OJT制度を支援する以下の研修を実施しております。詳細は、担当営業かフリーダイヤル0120-009686 田中、高橋までお問い合わせください。


●『OJT担当者向けワークショップ』(HS0056CG)
OJTトレーナーに任命された方が、何をいつどんな風に教え、育てればよいのか学ぶワークショップです。
●『OJT担当者上司向けセミナー』(HS0057CG)
OJTトレーナーの上司向けセミナーです。OJTの支援方法を理解し、新入社員やOJTトレーナーにコーチングするためのスキルを学びます。
● 『OJT担当者向けフォローアップ研修』(HS0055CG)
OJTが半年ほど進んでからのフォローアップ研修です。OJTトレーナー同士で課題を持ち寄り、残り数ヶ月のOJT期間でできることを決め、翌日からすぐ実行に移します。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

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[後輩指導・OJT新人社員研修][2006年6月23日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第8回 学習する意欲
執筆:田中淳子

  私達が提供している研修のスタイルは大きく分けて2つあります。ひとつは、当社の教室を使った公開講座です。様々な企業や団体からいらっしゃる参加者は、年齢層もまちまちです。もうひとつが、一社向けの研修です。お客様のニーズに合わせて、職位や年次で参加者を絞り込むこともあれば、お客様側で幅広く受講者を募集することもあります。
  どちらの提供形態であっても、受講者には、「受けたかった」「受けるのを楽しみにしていた」という方と「上司の命令で仕方なく」「来たくて来たわけではないのだが」「必須と言われたので嫌々やってきた」という方がいらっしゃいます。
  前向き、かつ積極的に「受けたかった」「楽しみにしていた」という方は心配ありません。研修の開始時点で既に「学びたいこと」が明確になっているからです。私達講師が気にするのは、「上司の命令で仕方なく」「来たかったわけではない」という消極的または後ろ向きの受講者です。
 
  講師は研修開始時に、「受講目的」をお尋ねするようにしています。後ろ向きの状態で参加している方がいらっしゃる場合は、以下のようにさらに詳しく問いかけてみます。  
  • 「上司の命令で参加した、とのことでしたが、上司からは、『こういう勉強をしてくるように』『○○のために受講してもらう』といったお話はありましたか?」
 
  驚くのは、この質問に対して、「上司が勝手に申し込み、部下はただ"行って来い"とだけ言われている」ケースが多いことです。これでは、互いに様々なコスト(時間やお金だけでなく、精神的なものも含みます)を無用に費やすことになり、もったいないと思うのです。
 
  折角の研修機会と費用を有効に使うためにも、部下やメンバを研修に送り出す上司やリーダーに、お願いしたいことがあります。それは、単に「受講してこい」ではなく、「何のために研修を受けてきて欲しい」「何を学んでくるように」といった動機づけをすることです。上司やリーダーに「目的」や「期待すること」などを言われれば、受講に向かう気持ちは相当前向きになるはずです。
 
  なお、一社向け研修の場合は、当方から、「開講時、最初の5分ほどで結構ですので、どなたかに研修の意図や開催の主旨をご説明いただけませんか?」とお願いすることもよくあります。研修担当部門長や参加者の所属部門長などに、直接、研修の主旨説明をしていただくと学習効果が非常に高まるからです。
 
  研修が始まればそこから先は講師の腕の見せ所です。講師も受講者の動機づけには様々な工夫をしています。
  たとえば、環境です。私が担当しているヒューマン・スキル研修では、教室に環境音楽を流して皆様を出迎えています。ご自由に召し上がれるキャンディ(*注1)もご用意してあります。ディスカッションやロールプレイなどの演習が多いので、リラックスして学習できるよう、カジュアルウェアでの参加もお薦めしています。
  環境面だけではありません。
  初日には、A3用紙に「自分が達成したい目標」を3項目ほど書いていただき、壁に貼り出すという儀式も行います。研修期間中、自分が掲げた目標を何度でも見る内に、自然と目的意識も刺激されるようになります。
 
  この時、上司から「研修の目的」「期待」をあらかじめ告げられていても、後ろ向きな気持ちから抜け出られない方もいらっしゃいます。講師は、「折角こちらにいらっしゃったのですから、何か一つ『目標』を決めませんか?」と提案してみます。ここまで言われると、「仕方なく来た」「嫌々来た」とおっしゃる方でも徐々に心がほぐれ、「だったら、○○を目的にしよう」などとその場で自分の目標を考え、書き出してくださるのです。
 
  このような工夫や取り組みもあった上で、最後に最も大切なのは、受講者自身の「学びたい」という意欲です。研修に臨む場合は、参加する前に、「学びたいこと」をご自分でじっくり考えてみていただきたいと思っています。
 
(注1)環境音楽とキャンディは、公開講座においてのみご用意しております。
(注2)ヒューマン・スキル研修には、多くのカリキュラムがあるため、選択に迷うという声も聞きます。そこで、公開コースに限り、見学していただけるようにしています。(1時間以内は無料です)詳細は、担当営業またはフリーダイヤル0120-009686までお問い合わせください。

 
 

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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『はじめての後輩指導~知っておきたい30のルール~』(日本経団連出版)

 

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[モチベーション][2006年5月22日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第7回 体験談に目を輝かせる新入社員たち
執筆:田中淳子

  2006年度の新卒新入社員を迎えられた企業も多いことと思います。毎年、各社の新入社員研修を担当しますが、今年2006年の新入社員は、総じて真面目で前向きです。
  私は、ビジネスマナーなど研修の初期段階で行う研修を担当することが多いため、新入社員とは入社数日後の「社会人になりたて」時点に会うことがほとんどです。


  ある企業様では、ビジネスマナーや営業から製造・納品までの仕事を疑似体験できるコースを実施しました。この研修では、ビジネスマナーや顧客との関係構築などについての講義と演習がありますが、その合間に私自身の体験談も話すようにしました。新入社員時代に上司に「笑顔で挨拶していない」と叱られた話など具体的な出来事を紹介しました。今年の新入社員は、こういう「体験談」を真剣に聞いてくれます。研修レポートでも「体験談をもっと聞かせて」というリクエストが多いのには驚きました。20歳も年の離れた講師の体験談など、「関係ない」「つまらない」と思うのではと危惧していましたが、真剣に耳を傾け、ノートをとるのです。


  その企業様では研修後の夜、2年目の先輩を交えた懇親会を企画されました。そこでも新入社員は、1年先輩にあたる社員に色々な質問をし、熱心にメモを取っていました。「今はどんな仕事をしているのですか?」「土日はどんな風に過ごしていますか?」「どんな勉強をしていますか?」「残業は多いですか?」などあらゆることを尋ねています。
  中には、「こんなことを聞くのはなんですが、身体を壊したことはありますか?」といったものもありました。
  彼女は、「"SEは身体を壊して一人前"と聴いたことがある」と真顔で尋ねるのです。
  聞かれた先輩は、「私だけじゃなくて、誰も身体壊した人はいませんよ。」と答えていました。


  こういった質疑応答は微笑ましいものですが、新入社員にしてみれば、「仕事とはどんなに大変なのか」「辛いのだろうか」と多くの不安があるのでしょう。そんな中で先輩が、明るく楽しく自分の仕事を語っていたことに、新入社員は、とても感動したようです。この時の懇親会について、後日、レポートにはこんなことが書かれていました。



  • 「先輩が私たちの目をまっすぐに見て、堂々と自分の仕事について語ってくれた。たった1年しか違わないのに、カッコいい。」

  • 「先輩が楽しそうに仕事の説明をしてくださった。自分も一日も早く、あんなふうに楽しそうに仕事を語れるようになりたい。」


  後輩は、先輩が明るく堂々と自分の仕事を語る姿を見て、不安を払拭できたようです。「1年後」の自分の姿をイメージしやすいこの懇親会は大成功であったと思います。
  社会人になったばかりというのは、多くの不安や疑問を抱えています。「今は、同期同士でまとまって研修を受けていても、配属後ばらばらになる。一人でやっていかれるだろうか?」といったことも心配でしょう。
  講師が、実務での体験を話すと、「そういうことがあるんだな」と講義内容と実務のイメージを結びつけるのに役立つようです。若手の先輩社員が語る現場の話は、「数年後の自分」を疑似体験できるよいきっかけにもなります。
  日常生活で年長者から話を聞く機会は、減っています。だからこそ、どんな話でも新鮮に映るのかもしれません。体験談、現場の話をどんどん聞かせることが、先輩の仕事の一つなのだと思います。


  ただし、体験談にはタブーもあります。「自慢話」と「お説教」です。いくら体験談だとは言え、「だから私はこんなに立派になった」とか「私もこうしてきたのだから、キミたちもこうしなければならない」といった話では、「そんなこと言われても時代が違う」、「先輩と私は違う」などと思い、気持ちが引いてしまいます。「自慢話」と「お説教」を避け、純粋に自分の体験談を話す。成功談はさらっと、失敗談は、臨場感を持って語るとよいようです。
  新入社員が配属されるのを楽しみ待っている先輩の皆さん、後輩に語れる「体験談」を今のうちに整理しておいてはいかがでしょうか?

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

【ブログ】 
「ヒューマンスキルの道具箱」
 

【著書】
『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)
『はじめての後輩指導~知っておきたい30のルール~』(日本経団連出版)

 

【連載中】 
日経BP朝イチメール「コミュニケーションのびっくり箱」(月曜日配信、無料) 

 


[ビジネスマナー新人社員研修][2006年4月20日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第6回 リーダー自身が"腹を決め"実践する
執筆:田中淳子

  「抱え込み症候群」―――。部下や後輩、チームのメンバに仕事を振ったり、任せたりすることができず、何でも自分でやってしまうことを指します。マネージャやリーダーの中にはこの症状が出ている人が案外多くいるようです。


  最近、中堅のリーダーを対象とした研修(*)を数多く実施しています。リーダーやサブリーダーが集まり、実際のチームにおける課題を出し合い、どうすれば解決するかを1日かけて話し合うものです。研修終了時に解決策の中からいくつかを選び、具体的な行動目標を立てます。数週間後、再集合し、成果報告と新たな課題の議論をします。社内やチーム内の課題を詳細に話し合う内容のため、一社向けでのみ行っている研修ですが、単なる座学ではなく、「現場の問題」を具体的に話し合うことと、自分で決めた行動を実践した後でフォローアップを行うことが評価され、多くの企業で採用していただいています。


  先日行ったある企業の研修で、「抱え込み症候群」の話をしました。「部下が育たない」「もっと自発的なメンバになってほしい」という課題が出されたので、「そもそも任せる気があるか」「自分が仕事を抱え込んで、部下に振っていないということはないか」と問いかけてみたのです。
  参加者の中には、「確かに、自分も抱え込んでいるところがあるかも」「怖くて任せられないと思うからなあ」という声も多く上がりました。
  色々と話し合った後、参加者の何人かが、解散時点で「まずは部下に仕事をふってみる」「自分でなくてもいいと思う仕事を思い切って任せる勇気を持つ」といった行動目標を立てました。


  3週間後、フォローアップ研修で再会した際、部下に仕事をふることができたか、それによって、どんな気づきが得られたかなどを一人ひとりが以下のように報告してくれました。



  • 「前回の研修で思い切って"自分の仕事の一部をメンバに任せてみる"という目標を立てました。研修の翌日すぐに、メンバにできそうな仕事を選び、"これを任せる、やってほしい"と渡しました。任せるのにはとても勇気が必要でしたし、任せた後も心配で仕方なかったです。でもしばらくして出てきた成果を見て、メンバが知らない間に成長していたこと、すごくできるようになっていたことを知り、自分でも驚きました。もっとメンバを信用して、仕事を任せていかなければいけないと思いました。」

  • 「私も"仕事を任せる"という目標を立てましたが、どの仕事を割り振るかも含めて、メンバに相談しました。メンバ全員をすぐ集めて、"こういう仕事があるんだけど、どうしよう"とやらなければならない仕事全部をテーブルに乗せ、見せました。すると、メンバが"これは私、やりますよ""この部分は私に担当させてください"と手を挙げてくれたのです。今までは、自分ひとりで全部仕事を整理して、メンバにやってもらいたい部分だけを指示していたのですが、今回、仕事丸ごとを全員に示してみたら、意外にもメンバは自主的に手を挙げてくれたのです。もっと信用すればよかった、もっと早くから相談すればよかったと思いました。それに、メンバに相談できる、と思っただけでも自分自身がとても気持ちが楽になれました。」


  この2例は、いずれもリーダーが自分で「任せる」と腹を決め、実践してみた成果です。メンバは、リーダーが気づかない内に育っていたという嬉しい発見もありました。
  チームの何かを変えようと思ったら、変えようと思った本人が「具体的な行動を決めて実践する」しかありません。他人は容易に変えられないからです。リーダー自身が変わることで、メンバにもよい影響を及ぼすことができます。チームを動かしたければ、どんな些細なことでも、リーダーがまず実践してみることこそ大切なのだと改めて知った研修成果でした。


*この「リーダーシップ強化ワークショップ」(HS0053CG)は一社向けにのみ行う「チーム作りとリーダーシップ」をテーマにした研修です。チームにおける課題を棚卸し、どう解決すればよいかを議論します。1日目が集合研修で、2-3週間の実践期間(OJT期間)を経た後、再集合します。フォローアップ研修は、半日ずつです。したがって、一人が参加するのは、1.5日となります。詳細は、当社Webコース案内か、担当営業までお問い合わせください。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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『速効!SEのためのコミュニケーション実践塾』『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)
『はじめての後輩指導~知っておきたい30のルール~』(日本経団連出版)

 

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[リーダーシップ][2006年3月22日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第5回 『当たり前のこと』を大切にする
執筆:田中淳子

  「当たり前」と誰もが思うような「基本的なこと」に限って、仕事では案外実践されていないことが多いものです。仕事を効率よく進めるために、「高度な知識」「豊富な経験」を身につけることには目が行きますが、基本をきちんと押さえることも大切なことではないかと思います。仕事の大半は、格別に高度な知識やスキルよりも、実は「基本」「当たり前」の積み重ねで成り立っているのではないでしょうか。


  ここ数年、会議運営のスキルとして「ファシリテーション」が注目されています。ファシリテーションとは、「物事がうまく進むように手助けする、促進すること」を指します。会議において、参加者から発言を引き出したり、多くの発言を整理し、まとめていったりするために必要な要素として「ファシリテーション・スキル」が重要視されているのです。
  できるだけ多くの意見を集め、効率よく話し合いを進め、参加者が納得感を得られるような結論に達するよう運営するために、「ファシリテーション」は是非学習しておきたいスキルです。


  この「ファシリテーション・スキル」に関する研修を行った時のことです。
  会議に先立ち、アジェンダ(Agenda:議事)を参加者に提示しておくこと、会議開始時にもアジェンダを再確認することが大切だという話をしました。社内会議や顧客との打ち合わせの前に「どのような内容の会議にしたいのか」と意思表示をしておくことで、互いに必要な準備をして会議に臨むことができるからです。これは、多くの人にとって、いわば「当然」のことなので、講義で「事前にアジェンダを出しましょう」と説明しても、「そんなの当然だ」「基本的なことだ」と思われる方が多いようです。
  では、実際に、毎回欠かさず「アジェンダ」を事前通知しているかというと、話は別で、ついついアジェンダは当日説明する、場合によっては、アジェンダを言わずに会議の中身に突入してしまうという方が案外多いことに驚きました。なんとなく忙しくて...とか、事前に送ることで相手(たとえば顧客)の時間を使わせても申し訳ないと思い、前もってアジェンダを提出しないのだと言う人もいます。


  さて、この研修に参加した方のお一人が、後日、「アジェンダを事前に出す」という、基本を実践してみた成果を報告してくださいました。
  彼は、顧客に要件定義などのヒアリングを予定していました。1週間ほど前に「ヒアリングでお尋ねしたい項目」をメールで送り、打ち合わせの2~3日前に念のため電話をかけ、「アジェンダをお読みいただいていますか?お送りした項目を当日インタビューさせていただきたいので、ご準備をお願いします。」と確認もしておいたそうです。
  そして会合当日、あらかじめ提示されていた質問項目に関しては、顧客側が回答を用意していたため、思いのほか効率よくヒアリングが進んだとのこと。
  このことを経験して、彼はこう反省していました。


  「今までは、事前に"質問項目"なんか提示して、お客様に余計な時間をかけさせては申し訳ないと遠慮していた。けれども、事前に"質問"を投げておくことで、お客様もそれなりに準備ができて、当日の打ち合わせ時間を結果的に2/3くらいに短縮することができた。質問されることがわかっていれば、資料などを揃えておいていただけるけれど、当日になって質問したいことをぶつけると、"ああ、それについては資料がありますが、今日は準備してないので、また次回に"という展開になって、結果的には情報収集するのに多大な時間がかかることになっていた。事前に時間を割いていただくのは決して失礼なことではないのだ、と今回初めて気づいた。」


  アジェンダの事前提示は、自分にとっても相手にとっても効率よく時間を使うことにつながります。
  この例のように「当たり前」と思えるようなちょっとしたことでも、実務で取り入れて実践するかしないかが、仕事の成果や効率に関係してくるものなのです。
  アジェンダの事前提示を始めとして、身の回りにある「基本」「当たり前」と思ってしまうようなことを一度見直してみてはいかがでしょうか。


*「ファシリテーション・スキル」に関しては、「ファシリテーション・スキル基礎」(HS0036CG)で学習することができます。実際にひとつのテーマで会議運営を体験する演習もあります。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

グローバルナレッジネットワーク 人材教育コンサルタント。産業カウンセラー。1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタルイクイップメントを経て、現職。コミュニケーション、リーダーシップなどヒューマン・スキル研修の企画、開発、実施に当たっている。

 

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[ファシリテーション][2006年2月20日配信]

わくわくヒューマンスキルコラム
第4回 母に理解された日
執筆:田中淳子

  研修の仕事というのは、「人と人とのつながり」で成り立つものだと常々考えています。講師も一生懸命進行しますし、受講されている方もできるだけ多くを学びとろうと必死になってくださる、そういう相互作用があった時に期待以上の成果が生まれるように思うのです。


  さて、人と人とのつながりといえば、研修内容が講師と受講者との関係だけではなく、受講された方とそのご家族といったつながりにまで広がることがあります。
  「まさか企業の研修でそんなことが?」とお思いになるかもしれませんが、本当にそういうことが時々起こるのです。


  「プレゼンテーション・スキル実践演習」という研修をある会社様向けに実施した時のことです。入社3年目くらいの若手SEの方たちが、顧客先で上手にプレゼンテーションできるようにという意図で企画された研修でした。講義は少なく、ひたすらプレゼンテーション演習を行い、何度もビデオ撮影をしてはフィードバックするというスタイルをとりました。1日目に撮影したビデオテープは、その場で見ることができなかったため、研修時間終了後に会議室で見るか、自宅に持ち帰って見てくることをお願いして解散しました。2日目の朝、「ビデオはご覧になりましたか?何かご自分で気づいた点、発見した点はありましたか?」などと振り返りコメントを拾っていきました。以下のような感想が出てきました。


  「自分で思った以上に堂々としゃべっていたので、安心した。」
  「アイコンタクトを取ったつもりだったけれど、左の方しか向いていなかった。」


  そんな中で、お一人が照れくさそうに微笑みながら、こんな話をしてくださったのです。


  「会社で見る時間がなかったので、自宅に持って帰って見ました。両親と一緒に暮らしているので、親が寝静まるのを待って居間でそーっとビデオを見ていたら、母が起きてきて、一緒に見る羽目になったんです。」


  彼女は、自分の担当しているシステムについて顧客に提案するという設定のプレゼンをしました。


  お母様がお部屋に入ってこられてもやめるわけにはいかず、最後まで二人でビデオを見たそうです。「恥ずかしいなあ」と思っていた彼女に、お母様はこうおっしゃいました。


  「あなたも頑張っているのね。いつもどうしてこんなに夜遅くに帰ってくるのかしら、と思っていたけど、ホントに頑張っているのね。」と。


  顧客に難しいことを説明することも仕事の一つで、これだけの技術や知識を得るために日々頑張っていること、遅くまで仕事に打ち込んでいることをお母様なりに理解なさったのでしょう。
  この話を聞いてほろっとしました。プレゼンテーションの研修は、プレゼンテーション・スキルを向上することが目的ですが、こんな風に親子の会話のきっかけになったり、家族に自分の仕事を理解してもらう材料になったりすることもあるのだなと嬉しく思いました。


  「プレゼンテーション・スキル実践演習」(X510J)では、仕事関連の話題でプレゼンテーションをしていただきます。必ず、ビデオ撮影もします。お一人分ずつ別々に収録するので、ご自分のビデオテープを持ち帰ることができます。
  このテープを封印してしまい、お蔵入りにしてしまう方もいるようですが、講師としては、是非、早いうちにご覧いただきたいと考えています。というのは、研修に参加した直後にフィードバックの効果が最も出やすいからです。時間が経てば経つほど見る気持ちも薄れます。また、随分後になって見ても、「どこがよかったか、どこが改善点として指摘されたか」を思い出すのも難しくなります。
  時々、「こんな恥ずかしいものは見られない」とおっしゃる方がいらっしゃるのですが、人に普段見せている姿なのですから、一度自分の目でチェックすることは意味のあることだと思います。もしどうしても"しらふ"で見るのがイヤだとおっしゃるなら、ワイン片手に見てもよいのです。


  気をつけているつもりのことはきちんとできていて、まさか自分はこんなことしていないだろう、と思うような意外な行動や動作をしている姿に驚くこともあります。
  でも、ビデオの中の自分を客観的に眺めて新たに気づくことも多いのです。
  家族との会話の材料になるかもしれないビデオです。一度挑戦してみませんか?


*「プレゼンテーション・スキル実践演習」では、ビデオ撮影をいたします。

 


田中 淳子 (たなか じゅんこ)

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[プレゼンテーション][2006年1月23日配信]

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